|ラドアンテナTop|製作のノウハウ|製作・調整に必要な測定器|設置方法|性能検証|技術考察(1)|技術考察(2)|失敗作例|他のアンテナとの比較考察|よくある質問集(Q&A)|自作ユーザー各局のご紹介|
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スーパーラドアンテナ(Super Rad Antenna)(以後SRAと略す)を実験し始めてから10年余りが経ちました。当初は失敗の連続でしたが、数少ない成功例を求めて実験を繰り返してきました。これから、今日現在判っていることを皆さんにご紹介しますが、これらの情報は当局や仲間が実際に検証してきた事実です。然しながら、これらの知見の全てが正しいと言う保証はありません。
例え保証が無いとしても、貴方がこれらの情報を得、このアンテナの素晴らしさの一端に触れることが出来たなら、当局にとって望外の喜びです。真のアマチュアスピリッツとは、失敗を恐れず果敢に挑戦する者だと思うからです。
SRAはコイルの出来、不出来に大きく影響されるアンテナでもあります。
という事は、使う線材や巻き方をしっかりと考えないと性能の悪いアンテナになるという事です。これには理由があり、漏れインダクタンスの存在や線間容量などが関係してくるからです。
水糸を使ったスペース巻き
樹脂製の水糸と一緒にコイルを巻いていきます。こうすることで非常に綺麗なスペース巻きのコイルが出来上がります。難点は巻きづらいことで、結構力も必要ですが、養生テープを用意しておいて、疲れたらテープで仮止めしながら作業します。
【水糸はどれ位の細さ?】
周波数が上がると微小な線間容量も問題になってきます。逆に低いとさほど影響がありません。VHFに近い周波数ならインダクタンスが少ない事もあって1m/m程度以上の間隔があった方が作り易く、MFに近い周波数周波数であれば密着巻きでも問題ありません。HF帯であれば、0.3-0.8m/m程度の水糸を用意します。
(スペース巻きの例/7MHz用)
被覆線(撚線又は単線)を使う
スズメッキ線は抵抗が大きく、性能が著しく劣化するようです。被覆線を使用する場合はメッキなしの裸撚り線をお奨めします。但し、裸銅撚線は太さの種類が少なく、目的の太さのものを入手しずらいことが難点です。
また、高周波特性を考えれば、塩ビ被覆ではなく、架橋ポリエチレンのような高周波特性の良いものを使いたいところですが、入手は困難です。
(被覆撚り線の例/3.5MHz用)
リッツ線やツイスト線を使う(作る)
高周波特性を考えれば、リッツ線などもが有利かもしれません。写真はLANケーブルをほどいたもの(2芯ツイストペアケーブル)で、被覆はポリエチレンで、中古ならごく安価で入手出来ます。
最も重要な事項はボビン径:シリンダ長:共振コイル長の関係です。
これを間違えると本来の性能が発揮できません。
■シリンダ又はディスクの材質とコイルの材質が一致している方が性能は良くなります。例:銅シリンダ、銅線。アルミシリンダ、アルミ線。
■ボビンに高周波特性の良い材料を使うと性能が上がるようです。
このアンテナには多少の知識と技術が必要です。下記に列記した程度の知識や技術、設備又は測定器が必要だと思います。
上記のどれも怪しくとも、やる気、覚える気があれば解決できます。
(当局が最初に始めた頃はどれも怪しかったですHi)
スーパーラドにはアースタイプとノンアースタイプがあります。
スーパーラドはその構造上コイルの両端に高圧が発生しており、そこにフィーダを繋ぎますとフィーダ直下での電位がうまく固定されていない場合にはフィーダが電位的に振られて同相電圧が発生します。そこで、その電位を固定(ローインピーダンスとする)する方法の一つがアースです。スーパーラドはハイインピーダンスなので、良好なアースでなくとも、例え数10Ω程度であっても簡単に電位を固定化できます。
アースラインの長さは周波数の1/4λの奇数倍は避けるべきです。ノンアースタイプばアース不要です。
出典:CQ誌9月号 Super Rad アンテナの理論
スーパーラドは不平衡なアンテナと考えられるため、同相電流の発生は有り得ます。実験初期にはモドキアンテナを作ってフィーダに同相電流が流れてフィーダ輻射を起こし、雑音の増加(S/N比の悪化)や受信感度の低下、送信能力の低下などに悩まされました。
良く調整されたアース付のスーパーラドはCMFを使用しなくても同相電流の発生をごく僅かにすることが可能ですが、CMFを挿入して同相電流を最小にしておくことは、アンテナの性能向上に寄与する事柄ですので、挿入される事を強くお奨めします。また、TX側への挿入は万一の場合のTX保護に役立ちます。
通常は1/4λ位置にCMFを挿入します(1/10λ程度の位置でも可)。こうすれば、アンテナ側がローインピーダンスとなり、同相電流が阻止されます。逆に、1/2λの整数倍は避けます。アンテナ直下でも構いませんが、阻止インピーダンスは充分大きなものを挿入してください。
フィーダとCMFの関係図
出典:CQ誌9月号 Super Rad アンテナの理論
アンテナの調整は、まず共振させ、次いでインピーダンスを整合させる訳で、ワイヤーアンテナであろうとスーパーラドであろうと全く同じです。
■共振周波数がどこなのかを調べる
(1)まず、共振コイルのインダクタンスを調べます。(測定器があれば測定し、無ければ計算します)
(2)次に、今回の場合ではシリンダの長さや径から容量を予測します。(多少予測が外れていても構いません。標準的なシリンダタイプで7MHzや3.5MHzを作ると3〜5pFほどになることが多いです。)
(3)L測定(計算)の結果、インダクタンスが150μHあった場合、共振点は5MHz前後にあるはずです。少なくとも、ここで2-3MHz台や8MHz、10MHz台に共振点らしきものが見付かってもそんな訳がないと判ります。 これが重要なことで騙されない基本です。
【共振点の調べ方の一例】
●アンテナアナライザーで調べる
アナライザーで予測した周波数を見て行き、リアクタンス分(±jX)が見えるアナライザーであればリアクタンスが0になる点を探し、リアクタンスが見れない(R±jXとして表示)タイプの場合はインピーダンスの変化点で探します。(図1)
●ノイズジェネレーター+周波数カウンタ付電界強度計で調べる
ノイズジェネレータでアンテナにノイズを入れ、電界強度計の示す周波数が共振点です。
●ノイズブリッジ+RXで調べる
ノイズブリッジでヌル点を探せば、それが共振点です。
他にも様々な方法がありますが、とにかく共振点を特定しないことには先に進めません。
■インピーダンスとリアクタンスの変化
スーパーラドのインピーダンス(R:純抵抗分)の変化はワイヤーアンテナと大きく違っています。ワイヤーアンテナは等価的に直列共振回路ですが、スーパーラドアンテナは等価的には並列共振回路です。下図はスーパーラドアンテナの共振特性図です。このような、並列共振特性になっていなければスーパーラドとして動作していないと言えます。
これは非常に重要なことで、アンテナ以外のアースや同軸といった回路によってアンテナシステム全体が直列共振回路となってしまうような設計や調整をした場合はスーパーラドとしてはうまく働かないことを意味します。
実験初期にはシステム全体として直列共振回路になってしまうような調整をして失敗作を大量生産しました。所謂トップローディングもどきやMVもどき、ヘリカルもどき・・などなどです。これらは容易に作れる上にそこそこは働くアンテナになったりしますので注意が必要です。
(図1)インピーダンスとリアクタンスの変化
ワイヤーアンテナ系と違い、インピーダンスの変化が山なりになっています。つまり、インピーダンス(R)のホップ点であって、リアクタンスが0の点が共振点ということになります。
(注)理論上、並列共振時はR=∞とされますが、漏れ磁束の存在やシリンダという負荷が付く等々の理由によってRは∞とはなりません。
設計や調整の失敗でうまく働いていない場合はシリンダ以外からの輻射が大きくなりますから、シリンダ以外からの輻射の有無が一つの目安になります。コモン電流が大量に発生している場合も同じです。コモン電流の測定結果はこちら
■調整例/ある7MHz用を調整したときの様子
(測定器:Rig Expert AA-230PRO)
SWRの様子:7MHz辺りに最良点があるように見える。
インピーダンス、リアクタンスの様子:これを見ると、実際にはSWR最良点よりも下側で共振していることが判ります。SWR最良点は純抵抗分とリアクタンスの関係から、見かけ上50Ωに近くなったためにSWRがよく見えている事が判ります。
この場合、共振周波数を7MHz辺りまで調整し直してからインピーダンス調整することになります。SWRの最良点を追い掛けるような調整をしてはいけないと言っているのはこのことです。今回の例のような上側だけではなく下側のケースもあります。
(注)示した写真はいずれもSWRのみを念頭に於いて調整すべきでないことの例として示したものです。リグエキスパート社のAAシリーズのアナライザーには同軸の影響をキャンセルしてデバイスの裸特性が見られる機能が付属しています(PC接続時)。
共振周波数を粗調整(7MHz付近)した後のインピーダンスとリアクタンスの変化の様子
リアクタンス0点とRホップ点が多少ずれている。これが一致すればベスト。
SWRの様子:共振点付近のインピーダンスが高いためSWR値が悪くSWR最良点と共振点にズレがありますが、この状態にしておいて(共振点を目的の周波数付近にしておく)からインピーダンスを調整します。リンクコイル式の場合、リンクコイルの位置や巻数の増減によるCの変化で共振周波数が動きます。周波数調整機構があれば、一旦ここで目的の周波数より上に調整しておき、後でCを印可することで共振周波数を目的の周波数とすることが可能です。
■インピーダンスを変換する
共振さえさせれば受信だけならもうOKです。しかし、送信出来るようにするためにはインピーダンスを50Ω付近にする必要があります。そこで、リンクコイルの巻き数と共振コイル上の位置によって変換します。慣れない内はリンクコイルを多目(3T-7T)に巻いておいて、その時のインピーダンスが大きければ徐々に巻き数を減らすか位置を上下させて50Ωに近づければ良いでしょう。
インピーダンスの変換はリンクコイル式でなくとも実現できます。要するに、アンテナ直下にインピーダンスマッチング回路があれば良いのですから、トランスマッチやLCマッチ、πマッチなどの方法が考えられます。これらの方法については逐次加筆していきたいと思います。
■最終調整(架設調整)
スーパーラドは周囲の影響を比較的受け易いアンテナです。原因は(シリンダタイプの場合)Cが少ない状態で共振させるからです。従って、室内調整から屋外に出すと(室内で影響を受けたC成分が減少するため)周波数が上がります。この現象はある程度の高さに上げることで安定します。後は、周波数調整機構(Cの増減)を行って周波数を目的周波数にして調整は終了です。この調整に於いてリンクコイルの位置を変えてはいけません。せっかくインピーダンスが合っているのですから。
HiQなコイルに多少多目のCになったものは必然的に帯域の狭いものになりますが、今までの経験からこういうラドは安定性があります。コイルはいくらHIQにしても構いません。むしろHiQにしてください。シリンダという負荷が付くことでQは下がります。
別途にCを用意しなくても周波数によってはコイル-シリンダ(ディスク)間で形成されるCで共振を得ることが可能です。この場合、最小限のCで共振している訳ですから、その帯域は得られる帯域の最大のはずです。
然しながら、このCは色々なCの寄せ集めであるが故に扱いが非常にやっかいです。当局は50本近い本数(その殆どが失敗作)を作って来ましたが、今になっても時々「あれっ?」なんてことになったりします。
(勿論、原因の大半は当局の技術不足に由来するのですが Hi Hi)
(空気)コンデンサを別途に追加すると以下のような「良い事」があります。
(注)本稿ではキャパシタンス可変で調整する方法をご紹介していますが、インダクタンス可変によって調整する方法もあります。
固定CやバリCを共振コイルに付加する方法のいくつかを別ページにご紹介するつもりです。また、創意溢れるアイディアなどございましたら、各局の投稿、メールをお待ちしています。(JF1TLT)
小型のアンテナは設置環境が悪くても設置出来ることが魅力の一つですが、スーパーラドは周りの環境に影響され易いアンテナですから、設置環境は非常に重要です。
時々、軒先や当局の試験時のような環境(ベランダに直付け)で運用されておられる方がいらっしゃいますが、それ以外の方法が無ければ仕方ありませんが、このアンテナがフルサイズアンテナであるという事を思い出して欲しいのです。例えば、フルサイズDPが軒下に展開されていて、充分な性能が発揮出来るでしょうか。ラドでも同じことです。
出来る限り建物や屋根から離す努力をしてください。当局はQSO用を2Fベランダから6mのグラスファイバーポールを建てて架設しています。屋根からせいぜい3-4mしか離れていません。アンテナを徐々に上げて行くと、屋根から1m離れる毎にSが1づつ上がるような変化があるのです。一軒家であれば、屋根上6m以上(推奨10m)に架設すれば本来の性能に近いものが体感出来るはずです。
実験用ポールへの架設の様子 左に見えるのが144&430用GP
架設の様子 15mタワーを2010/8月に建設
アパマン局には難しい設定かもしれませんが、出来る限りの努力が必要です。努力は必ず報われます。架設方法を考えてみてください。
本稿ではソレノイドコイルを使ったシリンダタイプのスーパーラドについて書いてきました。しかし、スーパーラドには多様な方法や形状が発見されつつあります。正に、スーパーラドアンテナの黎明と言える状態だと思っています。
■ディスクタイプ(平板エレメント)
シリンダ(筒状)に対してディスク(平板)をエレメントとする方法で、シリンダタイプとは輻射角度が異なり、低角度成分が多い特徴があるためDX向きです。キャパシタンスがシリンダタイプに比べて大きいため周囲の影響を受けにくく、調整も比較的容易です。形状から風圧の影響が大きいことがありますが、工夫次第で十分実用に耐える構造とできるでしょう。
■空芯トロイダルコイル
磁力を発生させるのであれば、ソレノイドでなくても良いのではないか。ということで提案された方法です。実験は始まったばかりですが、驚くべき結果が出つつあります。このコイルとディスクの組み合わせは漏れ磁束を最小に抑えることが可能であり、コイル自体が小型化出来るために更なる小型化が可能なようです。また、ディスクとの間に形成されるキャパシタンスが大きく、出来上がったアンテナは周囲の影響を殆ど受けないようです。コイル形状からホット側とコールド側がどうしても接近する構造であるため、絶縁(耐圧)問題が起こりますが、この解決方法がこの方法のカギかもしれません。
スーパーラドアンテナは二次電流の発生を利用したアンテナであるという原理原則を踏まえれば更なる進化や新たな方法が見つかってもなんら不思議ではありません。このアンテナに興味を持たれましたら、是非我々とご一緒に実験・研究を楽しんでください。
2011/12/19 JF1TLT
ここではシリンダタイプ(筒型)と呼ばれるスーパーラドアンテナの原型タイプについて記述しています。
スーパーラドアンテナ(略称SRA)は二次誘導電流を使って電磁波を輻射するアンテナであるため、その形状は一様ではありません。そのため、正しく理解していないと別な動作のアンテナを作ってしまうこともままあります。意外なことに、この傾向はワイヤーアンテナに造詣が深い方に多いようです。
シリンダタイプは最近流行のディスクタイプ(平板型)に比べて調整が難しい面がありますが、逆に言えばシリンダタイプさえ正しく作れるようになればディスクタイプや他のタイプも問題なく作れ、調整出来るということです。
シリンダタイプはSRAの原点です。本サイトを参考にされ、SRAの本質をご理解頂ければ、次は更に進化したSRAを貴方が作り出す番かもしれません。
JF1TLT